Publications by Kyoto University Researchers
弁証法的-構成主義の観点
精神分析の伝統的な治療技法の妥当性についての疑問は,精神分析がアメリカ精神医学の世界の王座から失脚して以来,精神分析の外側からだけでなく,分析家の中からも投げ掛けられて来た。 その中でも,アメリカの新しい精神分析の潮流である関係精神分析の論客であり,『転移分析』のMerton Gillの共同研究者としても知られる著者Hoffmanは,構成主義的な立場から「儀式」と「自発性」の弁証法という視点を提供してきた。 分析の場での儀式的な側面は,定められた場所や時間,料金などといった治療構造に代表され,一方の自発性は,その場で治療者に自然に浮かび上がってくるパーソナルな応答性ともいえるものであるが,儀式と自発性は図と地の関係にあって,一方があるから他方が効果を発揮する。 さらに広く考えれば,すべての私たちの活動は,ある種の伝統を固守する反復的で儀式的な側面と,それにとらわれない自由で創造的な面,すなわち自発的な面を有する。そして両者は弁証法的な関係を有し,お互いがお互いにその存在の根拠を与え合っているのである。 本書は,新しくより効果的な精神分析の技法を提示しているわけではない。それよりも精神分析や精神分析的心理療法で起こっていることを,どのように捉えたらよいのか,という問題を論じている本であり,それは人間の人生をどのように捉えるのかという問題と繋がっている。
所属部局 個人サイト
本サイトで探す CiNiiで探す