Publications by Kyoto University Researchers
看護師特定行為研修共通科目テキストブック
本書の編集依頼を受けたとき,自分自身は,看護師の特定行為研修の指導にかかわった経験はなかった。だから当初は正直「そんな教科書の編集なんて自分にできるのか?」と思っていた。ただ,そんなことを言っていても仕方がないので,まず看護師特定行為研修に関する情報収集から始めることにした。厚生労働省のWebサイトからいくつかの医療機関が研修にかかわっていることを知り,本書のテーマである臨床推論の指導にあたっている複数の先生に連絡をとってみたところ,驚くべきことに,そして当たり前かもしれないが,現場も困っていた。教科書がないので何を教えたらよいのかわからない,と。なるほど,新しい研修制度ができたときはこういうことになるのだ,と思った。 「教科書がないから教えられない」とか「現場で教えたことがないから教科書は作れない」と論理を武器にして言ってしまうのは,野党的な批判者としてのスタンスである。困っている現場があるのならば,ブリコラージュ的にでも「とにかくやれることをやる」姿勢を私は好む。そのような無茶ぶり的依頼をお引き受けいただいた本書の執筆者の先生方には本当に感謝の念に耐えない。そして医師と看護師との共著を原則としてできあがった本書が,私の好きな文化人類学的な姿勢が骨格になって,医師と看護師の今日的な関係をも提案するような内容になっていたことは存外の喜びである。 看護師の特定行為研修が始まった背景には,資格制度の負の側面があったと私は理解している。医師という専門職にしかできないことが制度上多かったため,医師のいない現場で患者の抱える諸問題に対処することが,資格制度上困難であったのだ。ダライラマ十四世は「増える専門家,増える問題」と言ったが,この首肯くところ大なる言葉に対して「それは専門家によるのではないか?」という反論をしてみたい。特定行為研修を受けられる看護師の方たちには,自分達がいないとまわらないような現場を作るのではなく,これまでの資格制度の谷間にある問題に柔軟に対応できる専門家になってもらいたいと心から願っている。 (錦織 宏「はじめに」より抜粋)
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