平安京の地域形成

レビュー本

平安京の地域形成

編著
歴史
西山良平, 鈴木久男, 藤田勝也 編
西山良平(人間・環境学研究科 / 編集)
Ryohei Nishiyama (人間・環境学研究科, 編集)
京都大学学術出版会 /

綴葉 2017年4月号 No.356, p.9

 本号刊行の頃に京都で新生活を始める方も多かろう。名所旧蹟の数々に「京都もの」がほしくなる。評者は昨年七月号の本誌特集で一般書から京都旅行を考えた。本稿では趣を変えて「京都もの」の専門書を評したい。

 本書は関西圏の研究者が二〇一〇年代に行った平安京研究の成果をまとめた論文集である。類書は数限りなく手に入るが、本書には研究の新しさ以外にも特長がある。

 まず本書が多分野の学智の共同に成功していることである。日本史や考古学、歴史地理学のみならず、建築史や日本文学まで網羅した執筆陣に加え、「アーティクル」の形で中国の住宅用語を扱った東洋史の論考まで所収する。多彩な視点が本書を飽きのこない、豊かなものにしている。

 また、本書は京大生がなかなか行かない京都の西部・南部に手厚い。低湿と衰退のイメージがある右京・西京について二章を割くほか、今も開発が進む京都駅周辺の発掘成果や数年来新聞を賑わす藤原良相(よしみ)邸も取り上げる。手挟んで外に繰り出すには少し重いかもしれないが、本書で学問の現在進行形を知るのみならず、「京大とその周り」的生活から抜け出すのに使うのも一興であろう。

 来る者がいれば去る者もいる。本書の編者の一人西山良平はこの三月まで長く総人・人環で日本史を教えた。西山の単著『都市平安京』や本書を読みながら、全学共通の講義への追憶に浸るのは少しくシニアになったものの春の楽しみである。
 

レビューアー
ヒストリア