東南アジアにおけるケアの潜在力 : 生のつながりの実践 (地域研究叢書)

東南アジアにおけるケアの潜在力

生のつながりの実践

地域研究叢書

編著地域研究

速水洋子編
速水洋子編
速水洋子(東南アジア地域研究研究所 / 編集, 分担執筆), 小林知(東南アジア地域研究研究所 / 分担執筆), 水野広祐(東南アジア地域研究研究所 / 分担執筆)
Yoko Hayami (東南アジア地域研究研究所, 編集, 分担執筆), Satoru Kobayashi (東南アジア地域研究研究所, 分担執筆), Kosuke Mizuno (東南アジア地域研究研究所, 分担執筆)
出版年月
2019.02
図書体裁
菊版
出版社
京都大学学術出版会
ISBN
9784814002009
定価(税抜)
5,600
頁数
586
本文言語
日本語

内容紹介

これまでの社会福祉論では,先進国が主流として扱われ,中進国や発展途上国は専らその「遅れ」が指摘されるばかりであった。しかし,東南アジアでは,超ハイペースで少子化・高齢化が進み,また移動労働などによる家族の変化の中で急速に増大するケアニーズに対して,制度整備の遅れを埋める形で,文字通り生きる実践としてのケアが立ち現れている。欧米では市場原理と個人主義のへのアンチテーゼとして提起された「社会全体で担うケア」という論理が,元来,東南アジア社会には内包されているのではないか。ネオリベラリズムのもとで主張される「自助努力」や「アクティブ・エイジング」を東南アジアから捉え直し,社会に埋め込まれたケアのつながりの活性化から,新たなケア原理を模索する。

目次

序章 東南アジアにおけるケアの潜在力
―生のつながりの実践―
[速水洋子]
オルタナティブの可能性 ―東南アジアでケアを問う
「関係の文化」の実践としてのケア ―もう一つのケア原理を見いだす
自助努力とアクティブ・エイジングの可能性と罠
家族・親族によるケア ―「アジア的家族」の称揚から「危機」へ
〈ケアのコミュニティ〉の実態と変容
社会に埋め込まれた実践としてケアを読み解く
ケアの多元性の理解と地域理解
本書の構成

PROLOGUE 北タイでHIV陽性者とともにケアを考える
―映像制作から見えたケアと関係性―
[直井里予]
1 映画で映し出すタイHIV陽性者のコミュニティ
─調査地の概要,映画の内容及び登場人物
2 DCCにおける看護師とHIV陽性者間,及びHIV陽性者同士の関係性の構築
3 日常生活の場におけるHIV陽性者間の関係性の展開
4 エイズ孤児との関係性の構築
5 「病縁」を介する新しいコミュニケーション,新しい「家族」

第I部 グローバルとローカル 制度と実践の展開

第1章 「家族主義型福祉レジーム」の課題と行方
―シンガポールの高齢者介護―
[田村慶子]
1 シンガポールの社会福祉制度
2 高齢者の介護施設
3 「社会主義型福祉レジーム」の見直し
4 岐路に立つ「家族主義型福祉レジーム」

第2章 アクティブ・エイジングの実践
―東ジャワ州および南スラウェシ州の事例から―
[伊藤 眞]
1 インドネシアの高齢者の状況 ―人口統計から
2 インドネシアの高齢者政策
3 インドネシアの保健サービス制度
4 南スラウェシ州マカッサル市における「健康な路地裏」運動
5 東ジャワ州の高齢者政策と高齢者クラブ活動
6 新たなコムニタスとアクティブ・エイジングの可能性

第3章 インドネシアにおける社会保障制度
―インフォーマルセクターの排除と包摂―
[水野広祐]
1 植民地下インドネシアにおける社会保障制度の確立へのあゆみ
2 独立後スカルノ政権期およびスハルト政権期の社会保障制度
3 アジア通貨危機後の社会保障制度

第II部 誰がケアするのか? 変わりゆく家族とケアの揺らぎ

第4章 老親扶養をめぐる規範を問い直す
―インドネシア・ジャワにおける高齢者福祉施設を事例として―
[合地幸子]
1 ジャワの家族と老親扶養の規範
2 調査地概要
3 ひとりでいてはいけない/ひとりにしてはいけない
4 福祉施設と家族のはざまで
5 扶養の価値観を共有できない親子

第5章 「独居」を選ぶ高齢者 ―ベトナムにおける家の祭壇と女性―
[加藤敦典]
1 高齢化,移住,居住形態
2 独居高齢女性の事例
3 ケアする母/妻という表象と高齢女性の居住形態の選択
─独居に対する社会的圧力

第6章 現代ベトナムにおける家族の居住形態と世代間ケア
[チャン・ティ・ミン・ティー (加納遥香・瀬戸徐映里奈訳) ]
1 背景
2 高齢者の居住形態の特徴
3 高齢者の経済的特徴
4 結論

第7章 ラオス低地農村部における 独居高齢者をめぐるケアの社会基盤
[岩佐光広]
1 「独居する高齢者」の出現
2 ラオスにおける高齢者を取りまく状況
3 高齢者の暮らしとケア ―2004 年の調査をもとに
4 高齢者の独居世帯の出現とそのケアの社会基盤
―2014 年の調査をもとに
5 独居する高齢者の今後

第8章 ケアから見なおす共生の形
―山地カレン村落における高齢者の棲み方―
[速水洋子]
1 タイにおける高齢者政策と調査地への波及
2 居住パターンの変化
3 親子分住のもとでのケア
4 ケアすることと共にいること
5 高齢者によるケア ―ケアとしての儀礼
6 共にいる時空と間にあるケア

COLUMN インドネシアにおけるバナキュラーなケア
―西ジャワ州カラワン県の高齢者をめぐる社会経済世帯調査―
[水野広祐,エカワティ・スリ・ワフユニ]
調査地と調査の概要
センサス調査結果
社会経済世帯調査の結果
まとめ

第III部 移動し往還する人々とケアの広がり

第9章 フィリピン・東ビサヤ地方における「家族」介護
―移民送出地域でみられる高齢者ケアの実践から―
[細田尚美]
1 人の移動と高齢者福祉制度
2 調査地における高齢者の状況
3 国外からの帰還者 ―減少する家族をどう補うか?
4 国内からの帰還者 ―ケアする「家族」の揺らぎ?
5 ケア・チェーン末端でみられる「家族」介護の多様性と限界

第10章 ケアの担い手の複数性とスマートフォンによる親子関係の補完
―少子化時代の東北タイ農村における子育て―
[木曽恵子]
1 共に暮らさない親子への視座
2 東北タイ農村における子どもの生育・教育環境
3 調査地における子育ての行為
4 少子化時代の東北タイ農村におけるケアの社会基盤と親子関係
5 ケアの担い手の複数性を容認する社会

第11章 妻の国で逝く日本人夫 ―他者とともにあるケアと死―
[古山裕基]
1 タイと日本の高齢化による諸現象
2 「他人」でもある夫婦間のケア
3 他者の死を見て,自分の死を迎える
4 人々の間にあるケアと死
5 「場」に宿る豊かな死とケア
―タイでの日本人夫たちの経験が日本社会に示唆するもの

第IV部 間の新たなケア・イニシアティブ ―コミュニティと宗教―

第12章 「女性に優しいコミュニティ福祉」は可能か
―タイ国コンケン県バーンプー自治体の事例から―
[江藤双恵]
1 2000年代以降の地方自治体とその職員
2 「地方の福祉」
3 調査地の概要
4 村コンテスト公聴会の事例
5 「仲介役」としてのコミュニティ開発専門職員
6 高齢者女性支援の事例
7 ケアの社会基盤としての「共働」そして「共食」を活かす

第13章 都市と農村のはざまでゆれるケアの社会基盤としてのコミュニティの行方
―ナーン県タイ・ルー村落の事例―
[馬場雄司]
1 N 村のネットワークとコミュニティ ―つながりと「居場所」
2 農村再生への挑戦 ―農の可能性を求めて
3 N 村とバーン・メータータム ―都市と農村のすれ違い
4 ケアの社会基盤としてのコミュニティの試行錯誤

第14章 出家からみるケアの実践とその基盤
―タイ北部国境地域におけるシャン人移民労働者に焦点をあてて―
[岡部真由美]
1 ケア供給者としての宗教の論じ方 ―「 ケア・ダイアモンド」論を越えて
2 タイにおけるシャン人移民労働者の増加
3 シャン人移民労働者と沙弥出家 ―チェンマイ県ウィエンヘーン郡の場合
4 出家を支える関係性,出家が生み出す関係性
5 出家からみたケア ―非対称な関係性をつなぐ

第15章 サンガハの可能性と限界
―カンボジア農村における萌芽的なケアに関する一考察―
[小林 知]
1 ポスト紛争社会に現れた主体的なケアの模索
2 サンガハを行う人々
3 サンガハの現状
4 サンガハの可能性と限界
5 萌芽性を保つこと自体の意味 ―むすびにかえて

EPILOGUE 草の根国際交流の実践としてのケア
―フィリピン田舎の小さな助産院が結ぶ日比のつながり―
[清水 展,冨田江里子]
1 はじめに
2 多忙をきわめる1日
3 小さな助産院ができるまで
4 下半身のつながり ―日比の恩讐と愛憎の歴史を超えて
5 貧者の生活で垣間見えた出産
6 自らの身体をケアするエンパワーメント
7 巻き込まれ,結ばれ,主体をつくり出す実践としてのケア

索引
執筆者紹介

図書に貢献している教員