ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」を読む

レビュー本

ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」を読む

単著
哲学・思想
細見和之(人間・環境学研究科 / 著者)
Kazuyuki Hosomi (人間・環境学研究科, 著者)
岩波書店 /

綴葉 2017年6月号 No.358, p.7

 突然だがなぜ私たちは、あの道路を走る物体を「車」と呼ぶのだろう。結局は恐らく、そう呼ぶから呼ぶのだと答えざるを得ないだろう。ということは「車」と呼ばれないこともありうるということだ。つまり「車」という言葉と、それが表す内容とは必然的な結びつきはない。これが一般的な私たちの言語に対する理解だろう。ではゴッホの絵と、その絵が表すゴッホの本質とならばどうだろう。恐らくそれは切っても切り離せないと答えるだろう。しかしまさしくこのような「意味するものとされるものの一元論」からベンヤミンの言語論は始まるのだ。

 本書はベンヤミンが自身の言語論について書いた論考「言語一般および人間の言語について」の全部分に詳細な解説を付している。著者は昨年京大に赴任されたドイツ思想を専門とする教授。難解なベンヤミンの言語論の魅力を、非専門家にも伝えようと腐心する著者の懸命な姿勢が見て取れる。

 上のような一元的な視点から始まるベンヤミンの言語論だが、やがて、神・人間・事物の三つが言語を持ち序列を形成するという独特な構図が持ち出される。人間の言語の間ではなく、その三つの言語の間に「翻訳」の関係をベンヤミンは認めようとするのだ。ここまでその一部を紹介したに過ぎないが、ベンヤミンの言語理解はとにかく日常的な言語理解とは大きく異なる。しかしそれは、ベンヤミンが言語により何かを名指すという根源的な営みを、その使用者たる人間ではなく言語そのものの地点から見ようとしているゆえのものなのだ。英語に見られるように言語の実用主義が幅を利かす今日、言語そのものについてじっくり考えてみては如何。

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