スマートグリッド・エコノミクス

レビュー本

スマートグリッド・エコノミクス

共著
経済
田中誠, 伊藤公一朗
依田高典(経済学研究科 / 共著者)
Takanori Ida (経済学研究科, 共著者)
有斐閣 /

綴葉 2017年8・9月号 No.360

 かつて、国際機関から日本の社会科学が政策にほとんど役立っていないと批判されたことがあった。そして、その当時、社会科学が活用されていると持て囃された事例である某国では、科学的根拠を露骨に軽視する指導者が誕生している。そのような時だからこそ、政策に活用されるべきエビデンスが提供される必要があるだろう。そのエビデンスを得るための手段として本書が提示するのが実験・行動経済学・ビッグデータの知見である。

 著者らは、我が国で初めてとなる大規模なフィールド実験を行い、いかなる政策が効果的であるかを明らかにした。その内容は本書で確認していただきたいが、精緻な実験デザインに裏打ちされたエビデンスは、今後の政策策定において活用されるべき重要な知見であると言えるだろう。また、本書で示されている事例から垣間見える人間の性分も実に興味深いものばかりである。

 先の批判から三十年以上が経過し、未だに状況は改善していないという見方もある。むしろ、世界的に見れば状況は悪化しているかもしれない。科学的根拠よりも「感情」が重視され、「ポスト真実」なる言葉が躍るような時代。そんな中にあって、真摯な科学的姿勢が社会をよくするという力強い希望が示された本書が世に出た意義は大きい。経済学者による著作ではあるが、内容は「人間」の行動変容を科学的に解明するというものである。文理問わず、幅広い読者に読まれるべき一冊である。

レビューアー
藪池