これからの幸福について

レビュー本

これからの幸福について

単著
哲学・思想
心理
内田由紀子(人と社会の未来研究院 / 著者)
Yukiko Uchida (人と社会の未来研究院, 著者)
新曜社 /

これからの幸福についてー文化的幸福観のすすめ

綴葉 2020年8-9月号 No.390から転載

 『幸せは、あったかい子犬』(Happiness Is a Warm Puppy)。 これはスヌーピーの生みの親、チャールズ・シュルツが出版した本の題名だ。彼にとって幸せは子犬のことかもしれないが、あなたにとっての幸せは何だろうか。誰もが望むという点では普遍的だと言えるが、その中身は一様ではない。幸福とは、かくも捉えどころのない概念なのだ。

本書は、そんな「幸福」を文化心理学の観点から取り上げている。文化心理学とは、人の様々な心理活動と文化がどのように関わり合っているのかを実証的に研究する学問である。著者は、京都大学こころの未来研究センターの内田由紀子教授。優れた女性研究者に贈られる「京都大学たちばな賞」を受賞するなど、耳目を集めている。

近年の心理学の理論はアメリカでの研究結果から導き出されたものが多い、と著者は指 摘する。しかし、アメリカと日本では幸福が意味するものは異なる。ある実験でアメリカ人と日本人に幸せの意味を記述してもらったところ、アメリカ人は殆ど回答がポジティブな内容だったのに対し、日本人は「(幸せだと)妬まれる」「不安になる」などネガティブな記述が約三割も見られた。この結果から、幸福を論じる際には文化的な要素も考慮する必要があることが示唆される。

幸福に関わる実証研究や最新の知見が幅広く紹介されており、文化心理学の面白さが凝縮された一冊。本書を片手に、アカデミックに「幸福」を考えてみませんか。 

レビューアー
はるな