学問からの手紙

レビュー本

学問からの手紙

単著
大学・学問
哲学・思想
宮野公樹(学際融合教育研究推進センター / 著者)
Naoki Miyano (学際融合教育研究推進センター, 著者)
小学館 /

学問からの手紙 : 時代に流されない思考

綴葉 2021年8-9月号 No.400から転載

 「これから学問の探求世界へと分け入る若い世代にこそ読んでいただきたい」という、ルネの方からの熱いリクエストに応え、本書を紹介しよう――他でもない、本学の学際融合教育研究推進センターの宮野公樹による学問論である。彼の講義、エッセイそしてインタビューの三つから構成される本書は、彼独自の学問観に貫かれている。
 宮野曰く、学問とは「問いに学ぶ」ものである。「なぜ……なのだろうか」あるいは「……とは何か?」といった問いを、この自分が発するのはなぜか。新たに設定されたメタ的な問いかけの中で自分、そして人間という普遍的な存在、さらには答えのない問いに向き合うこと――ここに著者は〈学問〉の本質を見ている。このとき学問は、答えがあらかじめ設定された問題を解くだけの「勉強」でも、まして学術論文という形式に縛られた「研究」でもない。こうして規定された〈学問〉は、同じような意味合いで用いられがちな概念から峻別され、むしろそれらの枠組みとの強いコントラストの中に位置づけられる。
 宮野自身も自覚的であるように、本書は決して調査結果やデータに基づく探究でなく、彼が学問に対する一方的な想いを綴った「手紙」にすぎない。章末の注ですら、それはあまりに主観的に書かれており、論理的な文章と言いがたい面は大きい。あるいは宮野なら、それは本当に〈学問〉を想えばこそ、その感覚的な書き方にやむなしと応じるだろうか。しかし評者はその厳密さの不在に、積極的な議論や対話を遠ざけてしまうような物足りなさを感じずにはいられない。本書を手にとった読者の、批判的な意見を請いたい。
 

レビューアー
八雲