ガザに地下鉄が走る日

Reviewed Book

ガザに地下鉄が走る日

Single Author
Culture & Religion
Area Studies
Politics & Government
Sociology
History
Other
岡真理(Graduate School of Human and Environmental Studies / Author)
Mari Oka (Graduate School of Human and Environmental Studies, Author)
みすず書房 /

ガザに地下鉄が走る日

綴葉 2021年8-9月号 No.400から転載

 ガザとはどこか?答えるには、一九四八年「ユダヤ国家」のイスラエル建国のために民族浄化という名目で、パレスチナ人が追放、虐殺された悲劇「ナクバ」から始めねばならない。その悲劇は歴史ではなく、七〇年経った今でも進行形の日常である。ガザは占領を免れ、パレスチナ自治領として存続していた。しかし、二〇〇七年イスラエル軍によってガザが封鎖され、二〇〇万人の住民が監禁されている。
 著者は、ガザ地区に留まらず、その他レバノンや難民キャンプで暮らすパレスチナ人について見聞きした出来事を具に描く。その文章には、著者の歩いた土の泥濘や匂いが、そしてパレスチナ人の語る声が、ありのまま届くかのような繊細さと力強さがある。
 パレスチナ人の人権を剥奪する中東諸国に無関心な世界に、著者は警鐘を打ち鳴らす。パレスチナ人の彼/彼女たちは、思い出したくもない非情な殺戮についてのインタビューに応じる。「その質問に答える義務があるのよ!」――そう著者に伝えて。そう自分に言い聞かせて。この語りを、我々は知るべきだ。
 彼/彼女らが、なりたい職を夢見て大学に進学すること、元の家に帰るために鍵を持ち続けること、家の畑を耕すために種を捨てないこと、故郷の美しさに想いを馳せること――人間として生きる希望を、我々は決して捨てさせてはならない。故郷を見ることなく死にゆく彼/彼女らに、「何が変わるの」とこれ以上世界に絶望し、嗚咽させてはならない。
 今、あなたが爆弾を投げられたり、家族が殺されるかもと怯えることのない環境で過ごし、人間らしく生きる権利を希求せず済むのなら、本書を読む義務がある。

Reviewer
トントゥ