「大学の森」が見た森と里の再生学 : 京都芦生・美山での挑戦

「大学の森」が見た森と里の再生学

京都芦生・美山での挑戦

編著
自然・環境
生物
石原正恵, 赤石大輔, 徳地直子編
徳地直子(フィールド科学教育研究センター / 編集, 分担執筆), 石原正恵(フィールド科学教育研究センター / 分担執筆), 坂野上なお(フィールド科学教育研究センター / 分担執筆), 阪口翔太(人間・環境学研究科 / 分担執筆), 山崎理正(農学研究科 / 分担執筆)
Naoko Tokuchi (フィールド科学教育研究センター, 編集, 分担執筆), Masae Ishihara (フィールド科学教育研究センター, 分担執筆), Nao Sakanoue (フィールド科学教育研究センター, 分担執筆), Shota Sakaguchi (人間・環境学研究科, 分担執筆), Michimasa Yamasaki (農学研究科, 分担執筆)
出版年月
出版社
京都大学学術出版会
ISBN
9784814005048
定価(税抜)
3,600
頁数
420
本文言語
日本語

内容紹介

100年続く大学の森である芦生研究林が、地元美山町の住民と、森と里の共再生を目指し本気の超学際研究に取り組んだ。多様な価値観と立場が交錯する中での協働のコツや苦労、研究者の変化、継続のヒントまで。

目次

はじめに[徳地直子]  

序章 芦生の森から生まれるつながり[徳地直子]
1 研究者が社会とつながること
2 研究を取り巻く環境の変化
3 大学と社会の関係の変化
4 みんなで進める超学際研究とその先へ
5 本書の構成
コラム 芦生研究林での学際研究[徳地直子]
付録
1 芦生研究林の概要[石原正恵・赤石大輔]
2 美山町と芦生の概要[石原正恵・赤石大輔・坂野上なお] 
3 用語説明

第1章 大学・市民・植物園の連携で希少植物を守る[阪口翔太]
1 芦生の森に忍び寄る危機
 (1)芦生の植物世界
 (2)人間社会─シカ─森林をめぐる問題
2 現場で植物を守る
 (1)芦生生物相保全プロジェクトの取り組み
 (2)自生地で守りきれない植物たち
 (3)市民研究者が作った芦生版レッドデータブック  
3 協働の始まり
 (1)森の再生にスポットライトが当たる
 (2)協働はお互いを知るところから
4 現場の「外」で植物を守る
 (1)始めよう生息域外保全
 (2)保全の対象にする種を選ぶ
 (3)学生と取り組む域外保全研究
 (4)ゼンテイカの事例:遺伝的にユニークな芦生の個体群
 (5)タヌキランの事例:希少種の交雑問題
 (6)遺伝データに基づくコアコレクションの作成と分散栽培
5 域外保全事業の課題と展望
コラム 芦生研究林におけるナラ枯れ[山崎理正]

第2章 回復力を失った森林生態系の再生にむけて[石原正恵]
1 芦生の森でのシカの捕獲の模索
 (1)これまでの捕獲の取り組みと課題
 (2)芦生の森でのシカの誘引剤の有効性実験
 (3)誘鹿剤実験の協働がもたらしたもの
 (4)シカの捕獲の今後
2 植生回復力の低下の解明と保全再生策
 (1)なぜ植生の回復力は低下したのか?
 (2)埋土種子相の劣化の解明
 (3)‌さらなる回復阻害要因の解明:種子散布制限,競争阻害,シカの採食圧
 (4)生態系の回復力の低下への新たな問い
 (5)大学の森での保全の事業化
3 さらに多様な主体との協働に向けて
 (1)新たな保全のプレーヤー
 (2)市民ボランティア「知ろう守ろう芦生の森」
 (3)新たなボランティアのあり方の模索
 (4)企業との連携
4 多様な主体との協働を通じて見えたもの

第3章 トチノキの利用と保全の両立を目指して[坂野上なお・石原正恵]
1 栃の実をめぐる衝突から協力に向けて
 (1)地域の方の思いに触れる(石原の場合)
 (2)地域の方の思いに触れる(坂野上の場合)
 (3)地域での活用の動き
 (4)協議会から研究者が学ぶ
 (5)協働にむけてのアプローチ
2 栃の実の利用を共に調べる
 (1)栃の実の加工方法
 (2)全国的な加工と流通
 (3)芦生以外の加工団体の事例
 (4)芦生での栃の実利用の事例
 (5)芦生での栃餅づくりの課題
3 トチノキの生育状況と栃の実の資源量を共に調べる
 (1)トチノキの分布
 (2)生育状況
 (3)更新状況
 (4)栃の実の結実量
 (5)栃の実の動物による利用
 (6)栃の実の人間による利用
4 栃の実に関する協働の成果
 (1)共通の問題意識の醸成と知の共有
 (2)保全と利用のルールづくり
5 栃の森と里の再生へむけて
 (1)栃の実の結実量の年変動と事業の安定性
 (2)事業化への試み
 (3)協働の発展へ

第4章 ツアーガイドと行う地域の生物多様性調査[赤石大輔]
1 きのこをめぐる森と人の関係
 (1)きのこと美山,芦生
 (2)これまでの芦生の森でのきのこ調査
2 ガイドとつくるきのこ目録ときのこ図鑑
 (1)芦生の森のきのこを棚卸する
 (2)きのこ調査の実施
 (3)キイロスッポンタケ再発見
 (4)きのこの絶滅種の扱いについて
 (5)芦生のきのこ目録ときのこ図鑑
 (6)市民による生物多様性のモニタリング
3 地域生態系の保全につなぐ植物観察会
 (1)生物多様性保全におけるモニタリングの意義
 (2)ビジターセンターでの観察会
 (3)仮説を立てる観察会
 (4)主催者へのヒアリング
4 大学研究林からシチズンサイエンスの場へ
 (1)ツアーガイドが果たす役割
 (2)生物多様性保全に向けた市民科学と超学際研究
コラム ガイドのニーズと研究者のニーズ[赤石大輔]
コラム 美山町のエコツーリズム[赤石大輔]

第5章 地域資源ブランドによる農産加工品の高付加価値化[内田恭彦] 
1 わさび祭りとの出会い
2 予備調査──葉わさび商品化プロジェクトの始動
 (1)芦生わさび生産組合との意見交換
 (2)わさびの自生状況とシカ害および集落の状況
 (3)「芦生原生林」ブランドの可能性を探る
3 商品開発──「京・美山 芦生原生林 葉わさびの醤油漬け」の誕生
 (1)商品レシピとコンセプトの開発
 (2)価格をめぐる議論
 (3)ブランド・ロゴ,パッケージと販促物の開発
4 試験販売と顧客アンケート
 (1)道の駅での試験販売とアンケート調査
 (2)試験販売成功の影響と明らかになった商品イメージ
 (3)ブランド効果が発生するしくみ
 (4)なぜ商品イメージの地域特産性は高まらなかったのか
5 中山間地域は「昔ながらの『豊かさ』」の提供を
6 超学際研究を通じての気づき
コラム 芦生地域の産業の変化[内田恭彦]
コラム 中山間農業地域の現状[内田恭彦]

第6章 地域が目指すツーリズムの姿を探る[清水夏樹]
1 農村にとってのツーリズムとは?
2 美山・芦生の地域づくりとツーリズム
3 研究を地域のニーズに活かすこと
4 アンケート調査の設計
5 来訪者へのアンケート調査結果
 (1)来訪者のプロフィール──美山・芦生にはどのような人が来ているか?
 (2)観光行動と期待──来訪者は何を求めて美山・芦生に来ているか?
 (3)消費額──来訪者は何にお金を払うのか?
 (4)来訪者にどのような情報発信をするか?
 (5)今後の美山観光のターゲット層の開拓
6 調査実施における地域との関係性
7 一連の調査から得られたこと
 (1)目標 1:‌地域が目指す観光を把握/実現するためのデータを得る
 (2)目標 2:‌今後本地域を対象に調査する研究者のニーズに対応可能な基本的なデータを得る
 (3)目標 3:‌今後の来訪者対象アンケート調査の際の指針となる方法・システムをつくる

第7章 地域との協働を育むプラットフォームづくり[福島誠子・赤石大輔]
1 地域との協働の進め方
 (1)地域との協働を進める最初の一歩
 (2)つなガール美山との出会い
 (3)連携イベント「おいしい水のひみつ」の開催
 (4)「おいしい水のひみつ」への参加者の反応
 (5)「つながる集会」への糸口
2 プラットフォーム「美山×研究つながる集会」
 (1)美山町における地域と研究者とのこれまでの関係を知る
 (2)関係主体が対等な立場で地域課題の検討を行う場としての機能
 (3)第1回 美山×研究つながる集会
 (4)第2回 つながる集会
 (5)北陸新幹線の延伸問題
 (6)研究者同士のつながりを模索する  
3 超学際研究へ,同床異夢で進める地域と研究者の協働
コラム 山の健康診断[赤石大輔]
コラム 屋久島学ソサエティ[福島誠子・赤石大輔]
コラム 協働のプラットフォームづくりの背景[福島誠子・赤石大輔]

終章 豊かな森と里の再生に向けて[徳地直子・赤石大輔・石原正恵]
1 超学際研究の評価[徳地直子]
2 目に見える成果(アウトプットとアウトカム)を評価する[赤石大輔・石原正恵]
3 自然と人とのつながりの価値を評価する[石原正恵]
4 モスト・シグニフィカント・チェンジにより研究者の変化を捉える[赤石大輔]
 (1)モスト・シグニフィカント・チェンジ(MSC)手法
 (2)最も重要な周囲の変化を研究者はどう捉えたか
 (3)自身の変化を研究者はどう捉えたか
 (4)MSCという評価手法の評価
5 超学際研究を阻む課題とそこからの気づき[徳地直子・石原正恵]
 (1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響と気づき
 (2)研究者間の対立とその回避・解決にむけて
6 地域と研究者の協働に必要なこと[赤石大輔・石原正恵]
 (1)つなぐ──コーディネーター
 (2)わかる──翻訳者(インタープリター)
 (3)ひろげる──ハブ機能を持った人材や仕組み
 (4)信じる──知の相対化と信頼の醸成
 (5)めざす──一緒に目標を設定する co-design
 (6)つづける──継続性を担保できる仕組み
 (7)等しい──対等なパートナーシップ
 (8)振り返る──超学際研究の評価 co-evaluation
 (9)むくわれる──協働に取り組む研究者の評価
コラム 地域ステークホルダーとの対話の技法[石原正恵]

あとがき[石原正恵・赤石大輔・徳地直子]
索引
執筆者一覧

図書に貢献している教員