「自分」が皮膚の内側に隠れていると思ったら大間違い。皮膚こそ、自分そのものであり、つねに私たちを語っている。とくに、アイデンティティとの関連では皮膚の色に格別の関心が置かれがちだが、皮膚はもっとずっと多彩なやり方で私たち自身を形作っている。そして、健康、美容といった生活面はもちろんのこと、「哲学や宗教、言語にまで、単なる物質的なあり方をはるかに超えた影響力を及ぼしている」と著者はいう。
本書が提供するのは、著者の専門である科学・医学はもちろん、社会・心理・歴史などの領域を含む、広大な皮膚の世界を巡る旅だ。ポケットから鍵を取り出してドアを開けるという動作一つとっても、皮膚がどれほど精妙に機能しているか、もしあなたが意識したことがなかったなら、きっとこの本の随所に発見が待っている。
卓越した案内人である著者とともにこの大きな旅を終えたときには、知りたかったことすべてを見て回ったように感じられるだろう。自分の皮膚の実力を知るだけで、私たちは小さな支えを得る。なぜなら、「それはつまり、私たちが何者であるかを理解すること」だからだ。
米英で大好評を得た2019年《英国王立協会科学図書賞》最終候補作の、待望の邦訳。
名称と用語について
プロローグ
第1章 マルチツールのような臓器
皮膚の構造とはたらき
第2章 皮膚をめぐるサファリ
ダニやマイクロバイオームについて
第3章 腸感覚
身体の内と外のかかわり
第4章 光に向かって
皮膚と太陽をめぐる物語
第5章 老化する皮膚
しわ、そして死との戦い
第6章 第一の感覚
触覚のメカニズムと皺
第7章 心理的な皮膚
心と皮膚が互いに及ぼす影響について
第8章 社会の皮膚
刻んだ模様の意味
第9章 分け隔てる皮膚
ソーシャルな臓器の危険な側面──疾病、人種、性別
第10章 魂の皮膚
皮膚が思考に及ぼす影響──宗教、哲学、言語について
本書に寄せて(椛島健治)
参考文献
用語解説
索引