流砂環境再生 (ダムと環境の科学 4)

流砂環境再生

ダムと環境の科学 4

編著
自然・環境
防災
角哲也, 竹門康弘, 天野邦彦, 一柳英隆編著
角哲也(防災研究所 / 編集, 分担執筆), 小林草平(防災研究所 / 分担執筆), 竹林洋史(防災研究所 / 分担執筆)
Tetsuya Sumi (防災研究所, 編集, 分担執筆), Sohei Kobayashi (防災研究所, 分担執筆), Hiroshi Takebayashi (防災研究所, 分担執筆)
出版年月
出版社
京都大学学術出版会
ISBN
9784814004997
定価(税抜)
6,300
本文言語
日本語

内容紹介

流域の問題には、多すぎる水(洪水)、少なすぎる水(渇水)もあれば、多すぎる土砂(災害)、少なすぎる土砂(河床低下、海岸侵食、河川環境劣化)もある。本書は、ダムによる流水の貯留とトレードオフの関係にある士砂の連続性遮断の問題を、流砂系の総合土砂管理の枠組みとして改めて考えるとともに、その一番の鍵を、「ダムの土砂管理=河川の流砂環境の再生」と定義し、これを進めるための科学的考察と実践の最前線の分析に取り組んだ。

目次

Part I 日本の河川とダム

第1章 日本におけるダム開発と堆砂問題〔安田成夫・小堀俊秀・角 哲也・一柳英隆〕
1.1 第二次世界大戦までの水利用と治水
 1.1.1 農業用水
 1.1.2 治水
 1.1.3 都市用水
 1.1.4 発電用水
 1.1.5 河水統制事業
1.2 戦後復興期と経済成長期の水利用と治水
 1.2.1 食糧増産と農業利水
 1.2.2 治水(河川総合開発事業)
 1.2.3 都市用水
 1.2.4 水力発電
1.3 データでみるダム建設の変遷
1.4 ダム貯水池の堆砂問題と流砂環境の再生
 1.4.1 流砂系の土砂問題の歴史的な変化と課題
 1.4.2 ダムの堆砂の特性と現状
 1.4.3 ダム堆砂に関する基準の歴史的変遷
 1.4.4 日本におけるダム貯水池の堆砂状況
 1.4.5 ダム堆砂量の予測
 1.4.6 ダム貯水池の土砂管理の必要性
❖コラム1 土砂生産・流出と気候変動影響〔角 哲也・箱石憲昭〕

第2章 総合土砂管理〔天野邦彦〕
2.1 総合土砂管理を導いた研究
2.2 総合土砂管理の基本理念の形成
2.3 総合土砂管理計画策定の手引きの発刊
2.4 ダムと総合土砂管理計画

第3章 ダム再生の動向〔佐々木 隆〕
3.1 既設ダム有効活用の必要性
3.2 日本におけるダム再開発の概要
3.3 ダム再生の必要性・方向性(「ダム再生ビジョン」をもとに)
 3.3.1 ダム再生の必要性
 3.3.2 ダム再生の今後の方策
3.4 ダム再生事例,課題と対応
 3.4.1 概要
 3.4.2 構造面での再開発
 3.4.3 水理面からみた再開発
 3.4.4 今後について

Part Ⅱ 流域土砂管理の科学

第4章 ダムのリスクマネジメントとアセットマネジメントしての土砂管理〔角 哲也〕
4.1 ダム貯水池の土砂管理対策の類型
 4.1.1 ダム貯水池への流入土砂の軽減対策
 4.1.2 ダム貯水池に流入する土砂を通過させる対策
 4.1.3 ダム貯水池に堆積した土砂を排除する対策
4.2 ダムのリスクマネジメントとしての土砂管理
 4.2.1 背砂(洪水リスク)
 4.2.2 堆砂と流木・沈木の相互作用による取水口・底部放流管の閉塞リスク
 4.2.3 事前放流と堆砂進行
4.3 ダムのアセットマネジメントとしての土砂管理
 4.3.1 アセットマネジメント対象としてのダム
 4.3.2 アセットマネジメントの堆砂対策への適用
4.4 堆砂対策の新たな展開
 4.4.1 ダム管理としての堆砂対策の必要性の再定義
 4.4.2 気候変動対策とダム堆砂対策
 4.4.3 ダム通砂のすすめ
 4.4.4 土砂バイパス技術の拡大
 4.4.5 カスケード方式(縦列)ダムの取り扱い
 4.4.6 ダムおよび河川のニーズに立脚した土砂管理
❖コラム2 Hungry Water〔角 哲也〕
❖コラム3 Bed Load Budget(掃流砂の土砂収支)〔角 哲也〕
❖コラム4 土砂資源マネジメント〔角 哲也〕

第5章 ダム下流の河道管理と土砂〔天野邦彦〕
5.1 河川砂防技術基準に見る河道管理と土砂の関係
5.2 ダムからの土砂供給を検討する上での流砂の見方
 5.2.1 河道断面内での河床材料の分類
 5.2.2 セグメントと河床材料の変化
 5.2.3 混合型と通過型の流砂
 5.2.4 有効粒径集団
 5.2.5 まとめ
5.3 下流河川の河道に対するダムの影響のとらえ方
 5.3.1 流量比と土砂流送比を指標とした大局的評価方法
 5.3.2 整理結果の概略評価
5.4 ダム下流における河床変遷の事例
 5.4.1 ダム下流における河床変遷の推定
 5.4.2 洪水履歴との比較
 5.4.3 流量比と土砂流送比から見た川俣ダム下流の河床評価
❖コラム5 札内川における樹林化と礫河原再生への試行〔渡邊康玄〕
❖コラム6 河口域の底質環境と生物の変化:荒瀬ダム撤去と球磨川河口域の干潟生態系〔小山彰彦・鬼倉徳雄〕

第6章 河道土砂管理のための流砂・河床変動の数値解析〔竹林洋史〕
6.1 河床変動解析
6.2 流砂と河床変動
6.3 1次元河床変動解析
6.4 平面2次元河床変動解析
6.5 置き土やダムへの排砂ゲートの設置などによって下流域への供給土砂の質と量が変化する場合の解析

第7章 土砂還元(置き土)のモデル化〔櫻井寿之〕
7.1 土砂還元の水理学的な検討方法(計算モデル)
7.2 研究事例
7.3 土砂還元等による河床変動を予測する
 7.3.1 数値計算モデルの概要
 7.3.2 数値解析法
7.4 数値計算モデルの実現象への適用
 7.4.1 三春ダム直下流における置き土侵食を対象に
 7.4.2 計算結果との比較
 7.4.3 出水を想定した場合の予測計算
❖コラム7 RESCON モデル〔大槻英樹〕
❖コラム8 ダム事業に関わる意思決定支援と多基準分析の可能性〔蔡 佩宜・篭橋一輝・佐藤真行・植田和弘〕

第8章 河川の環境管理としての土砂管理〔竹門康弘〕
8.1 河川生態系における土砂動態の重要性
 8.1.1 流域生態系の構造・機能と土砂動態
 8.1.2 土砂移動が河川生物にとって必要な理由
 8.1.3 土砂移動が水質形成に必要な例
8.2 河床地形管理の基本的考え方
 8.2.1 淀川水系河川整備計画における土砂動態の位置付け
 8.2.2 河川環境管理の目標・評価・対策の現状と課題
 8.2.3 河床地形管理の考え方と適用図式
8.3 河川環境に必要な土砂移動量
 8.3.1 河川の土砂移動量ポテンシャル
 8.3.2 河川環境に必要な土砂移動量の推定
8.4 聖牛を活用した土砂管理
8.5 土砂管理を河川管理の主軸に格上げするために
 8.5.1 新たな環境防災学の視座
 8.5.2 大規模な土砂流出も考慮した河川の縦断的な土砂動態管理に向けて
 8.5.3 流砂環境の再生に向けた河川の横断的な管理の工夫とEco-DRR
❖コラム9 ごり(カワヨシノボリ)の繁殖に必要な河床条件〔竹門康弘〕

Part Ⅲ 進む土砂管理

第9章 日本の土砂還元(置き土)の最新事情〔角 哲也・金澤裕勝・小野雅人〕
9.1 土砂還元(置き土)の現状
 9.1.1 土砂還元(置き土)の背景・経緯
 9.1.2 土砂還元の基本プロセス
 9.1.3 土砂還元(置き土)実施状況
 9.1.4 土砂還元(置き土)の具体的内容
9.2 土砂還元(置き土)の効果と検証
 9.2.1 河床材料の粗粒化の改善
 9.2.2 河床低下の改善
 9.2.3 生物の応答
 9.2.4 その他の効果
 9.2.5 土砂還元(置き土)の効果の把握に向けて
9.3 土砂還元(置き土)を進めていく上での課題と解決策
 9.3.1 土砂還元の実施上の阻害要因
 9.3.2 課題解決のためのアプローチ

第10章 土砂バイパスによる土砂供給効果〔小林草平〕
10.1 土砂バイパスとは
10.2 土砂バイパスの効果
 10.2.1 ダム下流への効果
 10.2.2 貯水池水質への効果
 10.2.3 土砂供給の効果の鍵となる土砂の量と質
10.3 砂州が発達する意義
10.4 生態系保全の観点における土砂バイパスの課題
10.5 土砂バイパスによる生態系保全の更なる可能性:動的河川の復活
❖コラム10 DNAメタバーコーディングを活用した土砂バイパストンネル下流の底生動物群集の評価〔渡辺幸三〕
❖コラム11 土砂供給効果の計測技術〔小林草平〕

第11章 黒部川における連携排砂の歴史と現状〔角 哲也・田中 晋〕
11.1 黒部川と土砂管理の必要性
11.2 宇奈月ダムと土砂管理
11.3 連携排砂・通砂およびその実施手続き
 11.3.1 出し平ダムの排砂
 11.3.2 連携排砂・通砂までの手続き
 11.3.3 連携排砂・通砂の時期および頻度,目標排砂量および自然流下時間,中止基準
11.4 連携排砂・通砂の評価
 11.4.1 環境調査
 11.4.2 環境調査の評価
11.5 これまでの連携排砂の総括と残された課題および新たな取り組み
❖コラム12 流水型ダムの土砂管理〔角 哲也〕

第12章 天竜川流砂系の総合土砂管理〔辻本哲郎〕
12.1 天竜川流砂系の土砂動態
 12.1.1 土砂生産が活発な天竜川上流域
 12.1.2 ダムの堆砂が進む天竜川中流域
 12.1.3 天竜川下流域における治水対策と総合土砂管理
12.2 天竜川流砂系での土砂管理計画策定
12.3 天竜川流砂系総合土砂管理計画策定の基本的考え方
12.4 佐久間ダムでの土砂管理技術
❖コラム13 天竜川の環境改善に向けた関係団体の連携事例〔喜多村雄一・竹門康弘〕

第13章 耳川のダム通砂を支えた産官学民のカルテット〔杉尾 哲〕
13.1 一ツ瀬川での濁水軽減対策の取り組み
 13.1.1 産官学の連携の構築
 13.1.2 流域の住民・団体との合意形成
 13.1.3 現在の取り組み
13.2 北川での川づくりと河川生態学術研究
 13.2.1 北川での川づくり
 13.2.2 北川での河川生態学術研究
13.3 耳川流域での取り組み
 13.3.1 河川整備計画の策定と変更
 13.3.2 総合土砂管理計画の策定
 13.3.3 総合土砂管理の取り組み
 13.3.4 いい川づくりの取り組み
❖コラム14 通砂による土砂供給効果を予測・評価する〔吉村 健〕

第14章 那賀川における持続的土砂管理へ向けた取り組み〔武藤裕則〕
14.1 那賀川における土砂動態の現状と課題
14.2 土砂還元の実態とその評価
14.3 総合土砂管理に向けた取り組み
 14.3.1 那賀川の総合土砂管理の段階的な進め方の概念
 14.3.2 モニタリングの位置付けと進め方
❖コラム15 土砂管理の経済評価:矢作川を事例として〔角 哲也〕

Part Ⅳ これからの土砂管理
座談会 これからのダムの土砂管理:流砂環境の再生に向けて〔福島雅紀・諏訪義雄・藤田正治・角 哲也・竹門康弘・天野邦彦〕

おわりに〔角 哲也〕
用語解説 〔角 哲也・竹門康弘・天野邦彦・一柳英隆・浅井直人・小林草平・最上友香子〕

図書に貢献している教員